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執筆者の写真【CastGlobal】弁護士・弁理士 島田敏史

最高人民法院より「知的財産権民事訴訟の証拠に関する若干規定」が発布

更新日:2020年12月1日



 2020年11月16日、最高人民法院より「知的財産権民事訴訟の証拠に関する若干規定」が発布されました。


 これまでの実務を明文化したものが中心ですが、中国知財訴訟実務を理解する上では参考になると思われます。


特に重要と思われる部分の和訳は以下のとおりです。


第三条
专利方法制造的产品不属于新产品的,侵害专利权纠纷的原告应当举证证明下列事实:
(一)被告制造的产品与使用专利方法制造的产品属于相同产品;
(二)被告制造的产品经由专利方法制造的可能性较大;
(三)原告为证明被告使用了专利方法尽到合理努力。
原告完成前款举证后,人民法院可以要求被告举证证明其产品制造方法不同于专利方法。
第三条
製法特許で製造された製品が新製品でない場合、特許侵害紛争の原告は、以下の事実を証明する証拠を提供する
(一)被告製造製品が製法特許を使用して製造された製品と同一の製品であること。
(二)被告製造製品が製法特許により製造された可能性が高いこと。
(三)原告が、被告が製法特許使用したことを証明するために合理的な努力をしたこと。
原告が前項の立証をしたときは、人民法院は、被告に製品の製造方法が特許製法と異なることを証明するよう要求することができる。

 製法特許の侵害について立証ができない場合に、所定の条件下で立証責任を転換させることができる、というものです。


 従前からこのような判例はありましたが、その射程範囲は必ずしも明らかではなく、今回、新製品でない場合において立証責任の転換があり得ることが明記されたことは一定の価値があると思われます。


 ただ、かかる立証方法は裁判所の判断に委ねる点で万全ではなく(裁判所に立証責任の転換を否定されてしまうと打つ手がなくなってしまうため)、訴訟外での証拠収集、行政当局を通じた証拠保全、裁判所を通じた証拠保全など、その他の選択肢の検討がより重要であることには変わりないと考えられます。


第五条
提起确认不侵害知识产权之诉的原告应当举证证明下列事实:
(一)被告向原告发出侵权警告或者对原告进行侵权投诉;
(二)原告向被告发出诉权行使催告及催告时间、送达时间;
(三)被告未在合理期限内提起诉讼。
第五条
非侵害確認訴訟を提起する場合原告は以下の事実を立証しなければならない:
(一)被告が原告に侵害警告または侵害の申立てをしていること;
(二)原告が被告に出訴権行使催告及び催告時間、送達時間を発出していること;
(三)被告が合理的期間内に訴訟を提起していないこと;

 中国では知財侵害事例が多く、そのため、警告状を出すケースも多いです。


 その際、非侵害確認訴訟を提起されるリスクについていつも考える必要がありますが、非侵害確認訴訟を提起するには上記立証をしなければならないとされている点で、参考になると思われます。


第六条
对于未在法定期限内提起行政诉讼的行政行为所认定的基本事实,或者行政行为认定的基本事实已为生效裁判所确认的部分,当事人在知识产权民事诉讼中无须再证明,但有相反证据足以推翻的除外。
第六条
法定期間内に行政訴訟が提出されなかった行政行為で認定される基本事実、又は行政行為で認定された基本事実として裁判所より確認され効力が生じた部分について、当事者は知的財産権に関する民事訴訟において再度証明する必要はない、ただし、これを覆すに足りることができる相反する証拠がある場合を除く。

 実務上、行政摘発などで行政処罰を得た後に、損害賠償請求訴訟を提起することがありますが、行政段階で認定された事実については訴訟時において基本的には立証が不要とされている点で、参考になると思われます。


 また、侵害行為者が複数ある場合に、1者に対して行政処罰を得れば、その他に対しては立証なくして訴訟も可能ということになれば、このような戦略も検討できると思われます。


第七条
权利人为发现或者证明知识产权侵权行为,自行或者委托他人以普通购买者的名义向被诉侵权人购买侵权物品所取得的实物、票据等可以作为起诉被诉侵权人侵权的证据。
被诉侵权人基于他人行为而实施侵害知识产权行为所形成的证据,可以作为权利人起诉其侵权的证据,但被诉侵权人仅基于权利人的取证行为而实施侵害知识产权行为的除外。

第七条
権利者が知的財産権の侵害行為を発見又証明するために、自ら又は他人に委託して普通の購買者名義で被疑侵害者より侵害物品を購入した実物、領収書等は被疑侵害者の侵害の証拠とすることができる。
被疑侵害者が他人の行為に基づき知的財産権侵害を実施する行為を構成する証拠は、権利者の提訴における侵害の証拠とすることができる、但し、被疑侵害者が権利者の証拠収集行為のみに基づき知的財産権侵害を実施する行為を除く。

 侵害品を購入して証拠とすることは多いですが、その際、証拠とする目的を秘して購入することが問題とならないか、検討するケースは少なくありませんでした。


 これまで、このような行為が侵害者側から問題視されて裁判上争われるケースはありましたが、結果としてそれのみを理由として証拠力や証明力を否定するケースは基本的にはありませんでした。


 今回、権利者やその代理人が侵害物品を購入して証拠とすることが基本的に問題ないと明記されたことで証拠収集や裁判上の立証がよりスムーズになると思われます。


 他方、権利者の証拠収集行為に基づく侵害行為のみである場合(おとり捜査でいう犯意誘発型のような場合)には侵害証拠とできないとされており、実際にこのような争い方をされるケースもあります。


 このような場合には、権利者が証拠収集した侵害物品のほかにも被疑侵害者が侵害物品を販売していることを示す証拠を別途補強する必要があり得ます。


第九条
中华人民共和国领域外形成的证据,存在下列情形之一的,当事人仅以该证据未办理认证手续为由提出异议的,人民法院不予支持:
(一)提出异议的当事人对证据的真实性明确认可的;
(二)对方当事人提供证人证言对证据的真实性予以确认,且证人明确表示如作伪证愿意接受处罚的。
第九条
中華人民共和国の領域外で形成される証拠が下記状況の中の一つに当たる場合、当事者は当該証拠が認証手続きがないという理由のみで異議を提出していれば、人民法院はこれを支持しない。
(一)異議を提出した当事者が証拠の真実性を明確的に認めていること;
(二)相手方の当事者が証拠の真実性の確認について証人の証言を提供し、かつ証人が虚偽の証言をすれば処罰を受けることを明確に表示したこと。

 日本の証拠を中国で提出する場合がありますが、中国外の証拠(域外証拠)は認証が必要とされているため、実務上ネックになるのがこの認証手続です。


 今回の規定で、証人の証言があれば認証がなくとも問題ないとされる可能性があるため、大量の域外証拠を出すようなケースでは、重要度等に応じて認証なしで提出することも検討できると思われます。


第三十一条
当事人提供的财务账簿、会计凭证、销售合同、进出货单据、上市公司年报、招股说明书、网站或者宣传册等有关记载,设备系统存储的交易数据,第三方平台统计的商品流通数据,评估报告,知识产权许可使用合同以及市场监管、税务、金融部门的记录等,可以作为证据,用以证明当事人主张的侵害知识产权赔偿数额。
第三十一条
当事者が提供する財務帳簿、会計証憑、売買契約書、出荷書類、上場会社年報、株主募集説明書、ウェブサイト又はパンフレット等の関連記載、システム上の取引データ、第三者プラットフォーム上の商品流通統計データ、評価報告、知的財産権の使用許諾契約及び市場監督管理、税務、金融機関の記録等は証拠として認めることができ、当事者が主張する知的財産権を侵害する賠償金額の証明に用いることができる。

 実務上、損害の立証についてどのような証拠を提出するべきかが課題となるケースは少なくありません。


 上記で具体列挙されているものは、従前から提出すべきものでしたが、改めて具体的に例示列挙されており、損害立証の際に参考になると思われます。




弁護士法人キャストグローバル パートナー弁護士

キャストグローバル国際特許商標事務所 代表弁理士

上海致昇商務諮詢管理有限公司 総経理

弁護士・弁理士 島田敏史


中国の「調査」と「知財」「法務」を専門とする日本国弁護士。2011年に渡中後、知財案件に関して2,000件以上の案件に関与。自ら調査会社を経営し、調査・証拠収集・公証手続から摘発、審判・訴訟といった法的対応までワンストップで対応。中国でのクリアランス調査や先使用権確保、無効鑑定などの知財予防法務のほか中国事業活動・投資活動についても多数サポート。中国・ASEANの知財案件の実績多数。


中国商標出願 │ https://www.st-lawyer.biz/mamoru

知財法務顧問 │ https://www.st-lawyer.biz/ageru





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